被相続人の保証債務を相続人が履行するために不動産を譲渡した場合の課税関係

2013/05/21

前回は、不動産をお持ちの人が他人の債務の保証人となっていた場合において、その債務者が資力を喪失して債務を弁済することが困難であることから、その債務者に代わって保証人が債務の履行をしたときの課税関係について説明しました。

今回は、被相続人の財産を相続した相続人が、被相続人の保証債務を履行するために不動産を譲渡した場合の課税関係について説明します。

前回と今回との違いは、保証人が被相続人であり、その被相続人の地位を相続人が承継していることです。つまり、もともと相続人は債務者の保証人ではなく、保証人の相続人であるということです。

そこで、相続人は被相続人の保証債務を相続人の債務として相続税の課税価格から控除することができるのかどうか?
また、相続人が被相続人に代わって保証債務の履行をした場合において、前回と同様に「保証債務の履行のための譲渡所得の特例(所法64②)」の適用を受けることができるのかどうか?
の2点が問題となります。

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1 被相続人の保証債務を相続税の課税価格から控除できるか?
<相基通14-3>
(1)一般的な取扱い
保証債務は、被相続人が支払うべきことが確定した債務ではないことから、被相続人の債務として相続税の課税価格から控除することはできません。

(2)保証債務を相続税の課税価格から控除できる場合
主たる債務者が弁済不能の状態にあるため、保証債務者がその債務を履行しなければならない場合で、かつ、主たる債務者に求償して返還を受ける見込みがない場合には、主たる債務者が弁済不能の部分の金額は、当該保証債務者の債務として控除することができます。

以上から、被相続人の相続開始直前において、債務者が上記(2)の状態にある場合には、主たる債務者に求償して返還を受ける見込みがない部分の金額を、被相続人の債務として被相続人の相続税の課税価格から控除することができます。

2 保証債務の履行のための譲渡所得の特例

相続人は被相続人の保証債務を承継しますので、相続開始後に所法第64条第2項に規定する「保証債務を履行するため資産の譲渡があった場合」の適用要件に該当するときは、この規定の適用を受けることができます。

なお、適用要件及び特例の内容は前回のブログにも記載しましたが、下記(1)及び(2)のとおりです。

(1)適用要件
① 保証債務を履行するため譲渡所得の基因となる資産を譲渡したこと。
…すなわち、他人の債務を弁済するために、自分が所有している土地・建物などの不動産を売却したこと。
② 保証債務の履行による求償権の全部又は一部が行使不能となったこと。
…すなわち、保証人が債務者に代わって債務を弁済したことにより、保証人は債務者に対して、今度は保証人である私に対して債務を弁済しなさいと要求できる求償権を取得します。しかし、債務者の弁済能力が不足しているため、その求償権の全部又は一部が行使できない状況であること。

(注1)この特例は、譲渡所得の他に、山林の伐採若しくは譲渡による山林所得若しくは雑所得(営利を目的として継続的に行われる山林の伐採又は譲渡による山林所得又は雑所得を除く)又は株式の発行会社にその株式を譲渡したことによる配当所得(みなし配当)についても適用されます。

(注2)求償権の行使不能による損失が不動産所得、事業所得又は山林所得の金額の計算上必要経費に算入されるものである場合には、この特例は適用されません。

(2)特例の内容
譲渡所得について、この規定の適用を受けた場合には、次に掲げる金額のうち最も少ない金額に相当する金額は、保証債務を履行するため資産を譲渡した年の譲渡所得の金額の計算上、なかったものとされます。(所法64②、所令180②、所基通64-2の2)
すなわち、なかったものとされるとは、そもそも所得が生じなかったものとするという意味です。
① 求償権の行使不能額
② 保証債務を履行するために資産を譲渡した年分の所得税の課税標準の合計額
③ ②の課税標準の計算の基礎とされた譲渡所得の金額

(このブログは、作成時(H25.6月)現在の法令等に基づいて作成しています。)

税理士法人中部メトロ社員税理士 足立勝彦のブログ「不動産のなやみ」から掲載。

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