相続時精算課税制度について(贈与・相続)

新非課税制度と併用して適用することが出来る相続時精算課税制度について暦年課税贈与と比較しながら説明します。

両親から住宅取得等資金の贈与を受けた場合には、まずは、新非課税制度を適用し、次に非課税限度額を超える金額がある場合には、その超える金額に相当する部分について、暦年課税贈与または相続時精算課税贈与のいずれかを選択することになります。

1 暦年課税贈与

暦年課税贈与は、本来相続税を課税すべき財産が、相続開始前に贈与されてしまうと相続税を課税することが出来なくなるため、相続税の課税を補完する目的として設けられています。
したがって、相続税と比較して、基礎控除額が低く、累進税率は高く設定されており、贈与しづらくする課税制度となっています。

暦年課税贈与を受ける場合には、住宅取得等資金の贈与税の課税価格から新非課税制度の非課税限度額を超える部分の金額について、その超える部分の金額から基礎控除額110万円を控除した残額に、贈与税の累進税率を乗じて贈与税が課税されます。
この場合において、贈与者である両親の死亡等により、両親の相続が開始したときは、その相続開始前3年以内に両親から受けた暦年課税贈与財産の価額のうち、贈与税の課税価格計算の基礎に算入された部分(新非課税制度の適用を受けた贈与税の非課税部分は、贈与税の課税価格計算の基礎に算入されていません。)については、両親の相続税の課税価格に加算されて、相続税の課税価格及び相続税額を計算します。これを「生前贈与加算」といいます。
なお、課税された贈与税額については、算出相続税額から控除しますが、控除しきれない金額があっても還付されません。

{ 贈与税の課税価格(注1)―基礎控除額(110万円) }×累進税率

(注1)
① 相続開始前3年以内の贈与財産の価額は、「生前贈与加算」されます。
  したがって、相続開始の数年前から暦年課税贈与を計画的に行うことにより、相続開始前4年以前の暦年贈与財産は、生前贈与加算されずに贈与税の課税のみとすることが出来ます。
 ② 受贈者がその年中に暦年贈与により受けた全ての財産の価額の合計額を基礎にして計算します。

2 相続時精算課税制度
(1)制度の概要
暦年課税贈与が相続税を補完することを目的として設けられているのに対して、相続時精算課税制度は、相続税と贈与税の一体課税を目的としています。すなわち、贈与の段階では特別控除額2,500万円(既に適用を受けた金額がある場合には、その適用を受けた金額を控除した残額)控除後の残額について、概算払い(税率20%の定率)で贈与税を課税しておいて、贈与者の死亡に係る相続税の課税価格を計算する際に、相続時精算課税制度の適用を受けた全ての贈与財産の価額を、贈与を受けた時点の価額で持ち戻して相続税の課税価格及び相続税額を計算します。

したがって、贈与時に課税された贈与税額はあくまでも概算払いであり、贈与者の相続開始時に精算することとしていますので、課税された贈与税額は算出相続税額から控除し、控除しきれない金額があれば還付されます。

この制度の適用を受けるには、特定贈与者ごとに相続時精算課税選択届出書を贈与税の期限内申告書に添付して提出しなければなりません。

また、この適用を受けることが出来る受贈者は、その贈与者(65歳以上)の直系卑属である推定相続人(通常は、贈与者の子)で、贈与年1月1日において20歳以上の者です。

{ 特定贈与者ごとの贈与税の課税価格(注2)―特別控除額(2,500万円)(注3) }×20%の一定税率

(注2)
① 相続時精算課税制度適用後の特定贈与者からの贈与財産の価額は全て相続税の課税価格に持ち戻されます。また、相続時精算課税制度適用後は、撤回することは出来ません。
② 精算課税贈与は、暦年贈与と異なり、特定贈与者ごとに贈与税の課税価格及び贈与税額を計算します。

(注3)既に適用を受けた金額がある場合には、その適用を受けた金額を控除した残額。

(2)住宅取得等資金贈与についての相続時精算課税制度の特例
 相続時精算課税制度の適用を受けることが出来るのは、(1)に記載のとおり、贈与者である父又は母が65歳以上でなければなりません。
 しかし、平成15年1月1日から平成26年12月31日までの住宅取得等資金の贈与については、贈与者である両親が65歳未満であっても相続時精算課税制度を適用することができる特例が設けられています。

前回は、新非課税制度と併用して適用することが出来る相続時精算課税制度の概要について暦年課税贈与と比較しながら説明しました。
今回は、相続時精算課税制度について、適用にあたって注意すべき点、贈与者の要件、受贈者の要件など、もう少し詳しく説明します。

(1)相続時精算課税制度の注意すべき点と有効活用。
相続時精算課税制度の概要については前回説明したとおりです。相続時精算課税制度は、贈与税や相続税の非課税制度ではありません。相続税との一体課税を目的としていることから、次のとおり、その適用に当たって注意すべき点や有効活用できるケースがあります。
これらのことを考慮して、暦年課税贈与とするか精算課税贈与とするかを判断することになります。

<注意すべき点>
① 撤回不可
 相続時精算課税制度は、父又は母ごとに選択することが出来ます。例えば、父からの贈与について相続時精算課税制度を選択した場合には、その選択時以後の父(選択された贈与者を「特定贈与者」といいます。以下同じ。)からの贈与は、原則として相続時精算課税贈与になります。また、相続時精算課税制度の撤回をすることは出来ません。
② 贈与税の確定申告書の提出
 特定贈与者から贈与を受けた年は、少額であっても贈与の確定申告が必要です。
③ 2,500万円の特別控除額
特定贈与者ごとに贈与税の課税価格から特別控除額2,500万円を控除した残額に対して20%の一定税率を乗じて贈与課税額を計算します。この特別控除額は、贈与ごとではなく特定贈与者ごとですので、特別控除額2,500万円使い切った後は、贈与税の課税価格に20%の税率を乗じて贈与税額を計算します。なお、暦年贈与のような基礎控除(110万円)はありません。
④ 相続税の課税価格に必ず持ち戻す
相続時精算課税適用後から特定贈与者の死亡に係る相続開始時までの間に、特定贈与者からの贈与により取得した財産の価額は、金額の多少に関わらず、贈与を受けた時の価額をもって相続税の課税価格に持ち戻さなければなりません。
⑤ 相続税の確定申告書の提出が必要
本来であれば、被相続人の相続税の課税価格が基礎控除額以下となることから相続税の確定申告書を提出する義務がない人であっても、相続時精算課税制度を適用した場合には、必ず相続税の確定申告書を提出しなければなりません。

⑥ 養子縁組
 年の中途において養子縁組をした場合には、養父又は養母から養子縁組前に贈与により取得した財産については相続時精算課税を適用することはできません。したがって、その年中の贈与で、養子縁組前のものは暦年贈与により、養子縁組以後は精算贈与により確定申告することとなります。

<有効活用できるケース>
① 将来、相続税評価額が高くなることが想定される財産
 相続時精算課税適用財産は、その贈与の時の価額をもって相続税の課税価格に持ち戻します。したがって、将来、相続税評価額が高くなることが想定される財産を精算課税贈与することにより、相続税の課税価格を低く抑えることが出来ます。
② 相続開始前に、特定の相続人に予め財産の贈与をしたい場合
遺産分割協議が整わないことから事業用資産などが事業承継者に相続されない場合には、被相続人死亡後の事業経営に支障をきたすこととなります。
そこで、事業承継者に予め事業用資産を贈与しておくことによって、被相続人死亡後の事業経営を安定させることが出来ます。この場合、贈与税の課税価格が2,500万円以下であれば、贈与税を課税されずに移転しておくことが出来ます。
③ 親から子供へ早期に財産移転が可能
親の死亡により相続が発生したとしても、被相続人の相続税の課税価格が基礎控除額以下であることが明らかである場合には、相続時精算課税制度を適用することにより、実質的に税負担を伴わないで、親から子へ生前に財産の移転をすることが出来ます。
なぜならば、贈与時点においては、贈与税の課税価格が特別控除額2,500万円を超えているため、その超える部分について20%の税率により贈与税を納付したとしても、相続税の課税価格が基礎控除額以下になるのであれば、納付した贈与税額は相続税の確定申告書を提出することにより還付されるからです。
④ 被相続人に係る債務控除
生前贈与加算された暦年贈与財産の価額からは、被相続人に係る債務を控除することはできませんが、相続時精算課税適用財産からは債務控除することができます。
すなわち、相続又は遺贈により取得した財産の価額=1,000
     贈与により取得した財産の価額=500
     その相続人が負担した被相続人の債務=1,200
とすると、
イ 贈与が暦年贈与の場合
  イ)1,000―1,200=切り捨て0円
  ロ) イ)+500=500 が相続税の課税価格
ロ 贈与が精算課税贈与の場合
  イ)1,000+500―1,200=300 が相続税の課税価格
よって、暦年贈与のイよりも精算課税を選択したロが有利となります。

ただし、相続又は遺贈により財産を取得しなかった相続時精算課税適用者(「特定納税義務者」といいます。以下同じ。)で相続開始時において法施行地に住所を有しないものは、その者が取得した相続時精算課税適用財産に係る被相続人の債務及び被相続人が法施行地において事業を行っていた場合の事業上の債務しか控除することは出来ません。

(2)贈与者の要件
 ① 贈与者は、贈与の日の属する年の1月1日において65歳以上の者であること。
 ② 通常、贈与者は受贈者の父又は母ですが、養子縁組をした場合には養父又は養母を含み、父又は母が既に死亡している場合には祖父又は祖母が該当します。
 
(3)受贈者の要件
 ① 受贈者は、贈与の日の属する年の1月1日において20歳以上の者であること。
 ② 贈与者の直系卑属である推定相続人であること。
   通常、相続時精算課税を適用できる受贈者は、贈与者の子ですが、養子を含み、父又は母が既に死亡している場合には孫が該当します。
   すなわち、贈与者が死亡した場合に、相続人となることができる直系卑属です。

(4)特別控除額
 特定贈与者ごとに2,500万円が特別控除額となります。年ごとや贈与ごとではありません。
 したがって、既に前年以前に適用を受けた金額がある場合には、その適用を受けた金額を控除した残額がその年の特別控除額となります。特別控除額を使い切った後は、贈与を受けた財産の価格に20%の一定税率を乗じた贈与税額が課税されます。

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